映画祭参加で来日
杜汶澤インタビュー
第37回香港電影金像奨など、映画賞レースをにぎわせている監督・出演最新作『空手道』を携え、「第13回大阪アジアン映画祭」のため来阪した杜汶澤(チャップマン・トー)に、巷で騒がれている「香港電影=港産片(香港映画)」の未来について聞きました。
——『無間道(インファナル・アフェア)』で一躍注目を浴びたあなたにとって、香港電影のイメージを教えてください。
貧困の「困」という一字が頭に浮かびますね。まず、世界にはお金持ちとそうじゃない人間がいるように、近年の香港映画界は貧困が特徴的です。そして、私が持つ貧困な人のイメージを挙げると、かなり大胆で、対応力があり、努力家であり、ちょっと頭がおかしい(笑)。その要素こそが香港電影における特徴といえるでしょう。裏を返せば、今多くの香港人監督が中国本土で撮っている合作は、ただの金持ちの映画に過ぎません。
——そんな香港電影を代表すると思われる1本を挙げてください。
陳果(フルーツ・チャン)監督の『香港製造(メイド・イン・ホンコン)』です。タイトル自体が香港電影を表わしているし、かなりの低予算で撮っているし、作品自体も低所得者の生活を描いている。しかも、そんな作品が香港だけでなく、世界の映画祭でも上映され、多くの観客の支持を得て、芸術作品としても高い評価を得ているからです。
——2015年には「香港電影製作有限公司」を設立し、これまで『雛妓(セーラ)』『選老頂』『空手道』という3作をプロデュースされました。
『雛妓』は性風俗にまつわる仕事、『選老頂』は黒社会組織、そして『空手道』はカンフー映画というように、私の会社では香港の伝統的で特徴的なテーマを扱った映画を作っています。前2作は社会派でもある邱禮濤(ハーマン・ヤウ)監督の適正を考え、社会性の強い衝撃的な作品にしましたが、『空手道』は自分が監督することもあって、人間に対して規範となるもの、不倫の被害者でもあったヒロインが空手を通し、自分自身をリスペクトする過程を描こうと思いました。また、不倫をする世の男性に対して、「もし、自分が彼女の父親の立場だったら?」といったメッセージも込めました。
——12年『低俗喜劇』で名実ともにトップになりながら、台湾の立法院占拠騒動、香港の選挙制度をめぐる抗議活動を支持したことで中国本土からの圧力を受け、香港での活動を休止する事態に追い込まれました。そのことを考えると、本作は完全復活ともいえます。
『空手道』が精神世界を描いた映画であるように、私は自分をリスペクトできる人間は生きていく術を知っていると思っています。つまり、何があっても決して諦めない。あの時期、私はどんなに攻撃されようが、それは自分と戦い、それを克服していくチャンスを与えてくれていると思っていました。だから、これからも私を攻撃しない方がいいと思いますね。
——そのような心境で撮られた『空手道』が各映画賞において高い評価を得たことについて、どのように捉えていますか?
投票で行われる映画賞が公平、公正であり、民主的であることが証明されたと思っていますし、『空手道』に投票していただいた方に感謝しています。まるで、私が黒社会の跡目相続に民主的選挙を持ち込もうとしたヤクザを演じた『選老頂』のような展開でもありますが、今の私は彼のように死んではいません(笑)。
——では、今後の香港映画界に対する展望を教えてください。
プロデューサーなど、映画製作者としての考えとしては、もう一度香港電影を盛り上げたい。新人監督と組んだ新作『G-殺』では悪徳刑事を演じましたが、役者としては今の自分しかできない役をやりたい。さすがに、『頭文字D』で演じた高校生はできないからね(笑)。監督としては、やはり自分の撮りたい作品を撮りたい。次回作では、粤劇(広東オペラ)を構想しています。コメディー俳優出身の私にコメディー映画を撮ってほしいという意見もあると思いますが、私は北野武監督をリスペクトしているんです。バラエティー番組で見せる顔とはまったく違う作品を監督する彼を目標にしていきたい。ただ、彼ほどの才能はないけどね(笑)。
(※取材協力・大阪アジアン映画祭運営事務局)
筆者:くれい響(くれい・ひびき)
映画評論家/ライター。1971年、東京生まれのジャッキー・チェン世代。幼少時代から映画館に通い、大学時代にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。卒業後はテレビバラエティー番組を制作し、映画雑誌『映画秘宝』の編集部員となる。フリーランスとして活動する現在は、各雑誌や劇場パンフレットなどに、映画評やインタビューを寄稿。香港映画好きが高じ、現在も暇さえあれば香港に飛び、取材や情報収集の日々。1年間の来港回数は平均6回ほど。